誰も損も得もしない、みんなが少し幸せになる。
愛知県豊田市押井の小さな集落から始まった「自給家族」のしくみは、
いま、いくつもの田んぼと、いくつもの食卓をつないでいます。
田んぼを守る人と、そのお米を食べる人が「家族」になる取り組みです。 都市に暮らす人が、中山間の集落と一緒に農地を支え、 一年を通してその田んぼで穫れたお米を受け取ります。 これは、お米を買う仕組みではありません。 自分たちで農地を保全し、お米を生産し、備蓄し、蔵から出して食べる ——つまり、都会にいながら米農家になる、ひとつの暮らし方です。
はじまりは、愛知県豊田市旭地区・押井町。 人口71人・23世帯の小さな集落で、2020年に鈴木辰吉さんが発案しました。 いま、このしくみは敷島地区へ、下山地区へと広がり、 各地で「自給家族」と呼ばれる仲間が田んぼを囲んでいます。
栽培にかかる費用をみんなで前払いし、穫れたお米を分かち合います。市場価格とは連動しません。豊作なら増え、不作なら少し減ります。リスクも収穫の喜びも、家族として分け合います。
誰が、どこで、どんなふうに育てたのかがわかります。季節ごとの便り、田植えや稲刈り、草刈りの日。参加は自由。訪ねても、訪ねなくても、同じひとつの田んぼでつながっています。
集落が続くこと、田んぼが残ること、地域の知恵が次の世代に渡ること。自給家族は「儲かる仕組み」ではなく、暮らしを守るための静かな約束ごとです。
押井町は、愛知県豊田市旭地区の山あいにある集落です。 人口は71人、世帯数は23戸。縄文晩期の遺跡が残り、 およそ3000年のあいだ、人が暮らし続けてきた土地です。
その集落が、ある日、研究機関から「このままいけば、およそ50年で消滅する」と告げられました。 高齢化と担い手不足、耕作放棄地の広がり。 押井だけの話ではなく、日本中の中山間地で起きていることです。
押井営農組合の代表・鈴木辰吉さんは、 「田舎は絶対に消滅させてはいけない。この言葉を次の世代への遺言にしたい」と語ります。 高く売るのではなく、田舎を応援したい人と「家族」のような関係を築いて、押井の人と同じように栽培費用を負担してもらう—— そう決めたとき、道が開けました。
「誰かが儲かって御殿が建つとか、車が買えるとかいうプロジェクトではないんです。 田舎が続いていくことが目的だから、それでいい。 自給的な暮らしをするっていうことが、田舎で暮らすっていうこと。 ずっとそうしてきたっていうだけのことです」
※ 引用は押井の里「ふるさとアーカイブ」より(出典)。
押井営農組合は、この取り組みで令和5年度 農林水産祭 むらづくり部門「日本農林漁業振興会会長賞」を受賞しています。
自給家族には、カタログのような商品説明はありません。 かわりにあるのは、季節ごとの田んぼの便りと、そこに通ってくる家族たちの時間です。
3月の終わりに苗代の準備がはじまり、5月には田植え。 小さい子どもからお年寄りまで、泥だらけになりながら苗を植えます。 「お礼は、たっぷりの自然と、田んぼで食べる美味しいおにぎり」——援農はそんな誘われ方をします。
田の草取り、獣害対策の柵の見回り、水の見まわり。 都会に暮らす家族は、天気予報で旭地区の降水量を気にするようになります。 「台風が来ると、田んぼが倒れていないかなと心配するんです」—— ある家族の方は、そう話していました。
穫れた新米は、ライスセンターで乾燥・調製ののち、 しきしまの家に整備された大型保冷庫「みんなの蔵」に玄米のまま貯蔵されます。 かつての自給農家が、外気温の影響を受けにくい土蔵にお米を備蓄し、 必要のたびに蔵から出して食べていた暮らしの、現代版です。
蔵から10kgずつ運び出し、家族のもとへ届きます。 遠くの家族には配送で、近くの家族は自分で蔵まで取りに来ることもあります。 年が明けるころには、次の一年の契約と、苗代の準備がはじまっています。
ふつうのお米の定期購入とは、どう違うのですか?
自給家族は、お米を「買う」仕組みではなく、栽培の経費を前払いして、穫れたお米を受け取るしくみです。 市場価格に連動しないので、豊作のときは増えますし、不作のときは家族みんなで少しずつ少ない収穫を分かち合います。 お米の売買というより、田んぼを一緒に守る「家族」としての関わり方です。
田んぼに必ず行かないといけませんか?
いいえ。訪ねても、訪ねなくても、同じ家族です。 田植えや稲刈り、草刈りなどの援農は、都合がつくときに自由にご参加いただけます。 来られない家族は、便りを通じて一年の田んぼの様子を受け取ります。
どんなお米が届きますか?
押井・敷島・下山などの中山間地で育てられた、特別栽培米「源流米ミネアサヒ」です。 農薬・化学肥料は慣行栽培のおよそ半分以下。 三河中山間のミネアサヒは、日本穀物検定協会の米の食味ランキングで 3年連続(2022〜2024年産)最高位「特A」を獲得しています。 玄米10kgの紙袋で、ご家庭のペースに合わせてお届けします。
不作の年はどうなるのですか?
家族全体で、その年の収穫を分け合います。 契約した量より少なくなることもあります。返金はありません。 そのかわり、豊作の年は増量などの形で還元されます。 「自分で作ったお米を、自分で食べる」ということは、本来そういうことだと考えています。
申し込みはどこからできますか?
現在、自給家族の受付はしきしまの家の公式サイトから行っています。 申込フォームからお問い合わせいただくと、ヒアリングののちに公式LINEでやりとりする流れです。 料金や契約期間の詳細も、しきしまの家の案内ページをご覧ください。
自分の地域でも自給家族を始めたいのですが。
このしくみは、押井から敷島へ、敷島から下山・羽布地区へと少しずつ広がってきました。 「家族になってくれる人がいる集落」は、きっと他にもたくさんあります。 興味を持たれた地域の方は、しきしまの家までお気軽にご相談ください。
2020年、押井の23世帯の集落から始まった自給家族は、
2023年には交流拠点「しきしまの家」を拠点に敷島地区全域へ広がり、
豊田市下山地区の「羽布みのり会」にも受け継がれました。
いまでは、押井・敷島・下山を合わせて約330の家族が、
それぞれの暮らしから同じ田んぼに連なっています。
この小さな取り組みが、もっといろんな集落へ広がっていくこと。
遠くに暮らしていても、互いを思いやる「家族」が各地の田んぼにいること。
それが、自給家族ネットワークが目指す風景です。
このサイトは令和7年度 農村型地域運営組織(農村RMO)形成推進事業の一環として制作されました。